帰りの電車での小さな出来事

電車が駅のホームに差しかかる
僕は読んでいた小説に栞を挟み、座席から腰を浮かせた
近くのドアに目をやると、女子高生が床に座り込んでお喋りをしている
少しうんざりした僕は、他のドアから出ようと歩を進めた
ふと、目に止まるものがあった
よく見ると、通路の真ん中に百円玉が落ちているのである
僕はそれを拾い上げると、落とし主を探して周囲を見回す
すると、すぐ横で手すりにもたれかかっていたサラリーマン風の男性と目が合った
彼は口元をニヤリとさせ、僕に向かって首を振る
『俺のじゃない、だが落とし主も知らない。拾ったのは君だ、持って行ってしまえ』
そう解釈した僕は、苦笑しながら頭を下げ、百円玉をポケットに仕舞った
ドアが開きホームに降りる
後ろを振り向くと、彼はまだ微笑を浮かべていた
僕も、つられて笑った
ただの百円玉で、こんなにも楽しい気分なるなんて
まるで今日、パチスロでン万円負けたことが嘘のように。嘘だといいのになぁ